B シアターピース公募合唱団(混声)



45年前に合唱の先人たちが眺めた“新しい合唱の地平”をいま体験しよう!


● 日本の合唱の歴史を変えた作品
1973年「追分節考」は生まれました。指揮者の田中信昭が“日本の音素材だけで合唱曲を作ってほしい”と柴田南雄に依頼して、東京混声合唱団によって初演されました。
「水のいのち」(髙田三郎)の初演が1964年、「筑後川」(團伊玖磨)が1968年、「島よ」(大中恩)と「コタンの歌」(湯山昭)が1970年の初演です。新時代の合唱曲が当時新進の作曲家によってきら星のごとく世に出てきた時代です。ノブナガもチハラもマツシタもキタガワもまだこの世に出るずっと前の話です。
日本に西洋音楽が入ってきたのが明治以降、日本で最初に生まれた合唱曲が瀧廉太郎の組歌「四季」(1900年発表、その第1曲に「花」が入っています)です。そこから70年かけて合唱は人々のものとなり、放送局の作品委嘱などもあってさまざまな作品が世に出てきました。
そんな時代に、人々を驚愕させる作品が世に出ました。西洋の着物を着た日本語のうた全盛だった時代に、日本固有の音素材だけでできた曲が現れたのですから、人々がぶったまげたのも当然です。(文中敬称略)


● スコアがない!!
私たちが日常演奏する楽譜にはスコア(総譜)があります。私たちはたいていスコアを用いて練習し、演奏します。
ところが「追分節考」にはスコアが存在しません。
楽譜には演奏される「素材」のみが記されています。その素材とは以下のものです。
1.上原六四郎「俗楽旋律考」の一部の朗読(女声)と、それに対する奇声による抗議(男声)
2.ユニゾンで歌われる追分節(男声)と、その背景をなす和声や旋律断片(女声)
3.ユニゾンで歌われる信濃追分(女声)
4.尺八によって演奏される追分節
指揮者は演奏の現場でこれらを構成し、歌い手や尺八奏者に指示を出し演奏させることによって、音楽を作っていきます。


● シアターピースという演奏形態
オペラやミュージカルのように演技を伴った歌唱が普通に存在するように、動きを伴った合唱曲は昔から多くありました。演奏の場を客席の前に設えられたステージに限定せず、その会場全体を使い、時にはパフォーマンスを伴った演奏形態をシアターピースと定義するとしても、その表現方法には様々なものが考えられます。
今回、「追分節考」で体験できるシアターピースはスコアが存在しませんから、いわば“予定調和”はありません。その場で起こるすべてが唯一無二のものです。同じ音素材を使っても二度と同じ演奏はあり得ない…という世界です。
でも、考えてみれば私たちが日ごろ取り組んでいる合唱だって、本来そういうものなのだとぼくは思っています。


● こんな人たちにぜひ歌ってほしい!
楽譜を手に取ったみなさんは「なんじゃ、こりゃ!」と思うでしょう。そして、そこから生まれる音楽はあなた次第。スリルとサスペンスに満ちた音楽の現場をぜひ体験してみましょう。みなさんは生きていることの意味、合唱の中で個人の大切さに気付かれると思います。
“合唱はみんなでよっかかりあって歌えるから楽でいいよね”なんて考えていた人たち、本来歌うということは、合唱するということは、声を合わせるということはこういうことだったんだ!!と気づいていただけると思います。
今から45年前、プロ合唱団しか体験できなかった世界を、今私たちが体験できる場が整いました。
先にも書きましたが、この作品の演奏に“失敗”はありません。集まっていただいた方々と共に考え、ともに試しながら作っていきたいと思っています。今でも輝きを失わない作品を共に体験しましょう。


(4月21日 おぼろ月夜コンサートにて演奏予定)
西牧 潤


指揮:西牧 潤

合唱団ボイスフィールド、宝塚少年少女合唱団、甲南大学グリークラブなどの指揮者として活動する一方、

オペラの指揮ほか、幅広い演奏活動を行っている。

また若い合唱人の支援や、地域の音楽活動の振興も積極的に行っている。

シアターピース作品の上演などにも力を注ぐ一方、宝塚少年少女合唱団との海外における演奏も多い。

芦屋合唱協会会長。日本合唱指揮者協会会員。

平成指揮者十人の会、21世紀の合唱を考える会合唱人集団『音楽樹』同人...など。

指揮を小林研一郎、斉田好男の両氏に師事。

尺八:三代 星田 一山

幼少の頃より都山流尺八演奏家初代星田一山(祖父)に師事し、初代没後二代目星田一山(父)に師事し現在に至る。大阪音楽大学では箏・三絃を専門に学び、卒業後は尺八演奏家として歩みだす。都山流本曲コンクールでは2度文部大臣賞を受賞。NHKTVやFMに多数出演。現在、大阪音楽大学講師、都山流竹琳軒、都山流参事、都山流講士、都之雨社(としゅうしゃ)会長。

大阪音楽大学では尺八の実技指導のほか、教職課程を選択している学生に対し、「邦楽指導法」という授業を担当している。本曲と三曲合奏に基本をおいて伝統的な「音」を追求しながら、尺八で表現できるさまざまなジャンルの音楽に取り組んでいる。また長年二つの邦楽合奏団(箏・三絃・尺八等)の常任指揮者として活動し、近年多くの団体より依頼を受け指揮、指導を行っている。